FPコラム
「タンス預金急増」の理由は?(阿部重利)
2017-04-07
3年で3割超、43兆円!?
このコラムを書いている2017年4月3日の日経朝刊に、「タンス預金が止まらない〜3年で3割超、43兆円」という記事が掲載されています。果たしてこの理由は何なのでしょうか?
普通預金・当座預金も増えている
昨年2016年2月にマイナス金利政策が実施されて1年以上たちました。
その後、日本銀行が今年2017年3月9日に公表した、2017年2月の1ヶ月間の通貨量の残高を調べた「マネーストック速報」によると、企業や個人が金融機関に預けた普通預金や当座預金などいつでも引き出せる「預金通貨」の残高は、559.6兆円でした。1月より0.9兆円減ったものの、1月までは5か月連続で過去最高を更新していました。
普通預金や当座預金など「預金通貨」は、軒並み前年同期よりも増えており、特に「マイナス金利政策」が実施された2016年2月以降は、大きく伸びています。
その一方で、定期預金など「準通貨」の残高は、前年に比べて減っています。「マイナス金利政策」の影響により、定期預金の金利が低下したため、中途解約するとペナルティが科される定期預金よりも、いつでも自由に引き出せる普通預金に預ける人が増えたと考えられるのではないでしょうか。ここで、タンス預金のみならず、普通預金や当座預金も増えていることがわかります。
なぜ?タンス預金か?
では、「そのまま普通預金や当座預金のままで良いのではないか?」と思われる方もいるでしょう。なぜ、そこからさらに【タンス預金】になってしまうのでしょうか?
その理由は、端的にいえば、預けておくことのメリットよりデメリットを気にしているということだと思います。以前の高金利時代であれば、預けておけば金利で増える、家においておくよりは安全といったメリットの方が強かったのに対し、現在の超低金利下では、デメリットの方が際立ってしまうということでしょう。
では、預けておくデメリットとは?
例えば、「富裕層が金融機関に預けて置くことで何かと徴税等に対して詮索されるのを嫌がっている。」ということもあるでしょう。また、常識的に考えて、我が国では普通預金や当座預金の金利がマイナスにまでなる心配はありませんが、「今後は、マイナス金利政策が長引き、銀行の経営を圧迫するようなら、いままではかからなかった手数料がかかるようになる、あるいは既にある手数料を値上げするなどの措置が取られる可能性」を嫌がっていることもあるでしょう。
しかしながら、筆者はそのような理由の根底には、「将来に対する絵がかきづらい」、「漠然とした不安と不透明さが蔓延している」「日本の財政への不安」という根本的なものが流れているような気がしてなりません。
これから望まれること
まず、金融機関には、これら現状優先されるデメリットを大きく上回るようなメリット、すなわち何かしらの「付加価値」の提供が求められていると思います。なぜなら、【金利が低いから仕方ない】という理由は、他行・他社も同じなのですから。
さらに、タンス預金が急増しているという報道一つとっても、国民の多くが抱えている【漠然とした不安】に対して、官民ともに明るい未来を描き、積極的に生活できる環境整備を整えていく必要があるのではないでしょうか?
阿部 重利
- 【あべ しげとし】
-
経済産業省認定 経営革新等支援機関 ヒューマネコンサルティング株式会社
代表取締役保有資格:
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ、CFP(R)、金融知力普及協会認定金融知力インストラクタ−、DCアドバイザー、年金・退職金総合アドバイザー、心理カウンセラー、ワークライフバランスコンサルタント金融機関での実務経験を生かし、経営顧問・コンサルティング活動の傍ら、全国各地で講演会をはじめ、年約150本の企業研修、講演会、セミナー、などを精力的にこなしている。そのパワフルでユーモア感のある語り口と説得力は各方面から好評を得ており、これまでコンサルティングや研修、講演を受けた企業人の知識やモチベーション・スキルアップに大きく貢献している。
著作に、『実践 ワーク・ライフ・ハピネス2〜成功する会社は仕事が楽しい〜』(万来舎)、『働き方が変わる!会社が変わる! 実践ワーク・ライフ・ハピネス』(万来舎)、『コモディティ投資入門』(アスペクト社)、ほか、『フィナンシャル・アドバイザー』誌(近代セールス社)、『ファイナンシャル・プラン』誌(きんざい)等多数。