NISAコラム
地震と株価の関係を知る――過去の事例を検証
阪神大震災、市場は後手に
熊本地方を中心とする地震で、被害に遭われた方にお見舞いを申し上げるとともに、亡くなった方のご冥福をお祈りいたします。マーケットにおいても、自然災害は株価を動かす要素として、最も予測が困難なものの1つです。特に地震や台風の多い日本では、これまでも自然の脅威が経済に大きな打撃を与えてきました。今回は、過去の震災と相場の関係を振り返りたいと思います。
図表1は、1980年以降に発生した主な地震と、その後の日経平均株価の推移を示したものです。震災発生日の終値(震災当日が休日の場合はその前営業日の終値)を1として、120営業日(約半年)目までを指数化しています。図表2では、それぞれのケースにおける実際の株価の動きをまとめました。
図表1:主な震災と日経平均

※ 震災発生日を1として指数化
出所:モーニングスター
規模が飛び抜けて大きかった東日本大震災では、東京電力の福島第1原子力発電所事故もあって、発生直後の営業日(11年3月14日)には日経平均が前日比で6%超も下落しました。一方、こちらも甚大な被害をもたらした阪神・淡路大震災ですが、直後の95年1月17日の日経平均の下落率は、安値時で1.3%、終値では0.5%にとどまりました。
図表2:主な震災と日経平均
震災名(発生日) | 地震の規模 | 死者・行方不明者計 | 当日の日経平均※ | その後の日経平均(騰落率) | |||
1営業日目 | 20営業日目 | 60営業日目 | 120営業日目 | ||||
東日本大震災(11年3月11日) | M9.0 | 21,935人 | 10,254円 | 9,620円(-6.2%) | 9,719円(-5.2%) | 9514円(-7.2%) | 8,784円(-14.3%) |
新潟県中越沖地震(07年7月16日) | M6.8 | 15人 | 18,238円 | 18,217円(-0.1%) | 16,800円(-7.9%) | 17,458円(-4.3%) | 14,110円(-22.6%) |
新潟県中越地震(04年10月23日) | M6.8 | 68人 | 10,857円 | 10,659円(-1.8%) | 10,849円(-0.1%) | 11,289円(+4.0%) | 11,088円(+2.1%) |
十勝沖地震(03年9月26日) | M8.0 | 2人 | 10,310円 | 10,318円(+0.1%) | 10,335円(+0.2%) | 10,371円(+0.6%) | 11,364円(+10.2%) |
阪神・淡路大震災(95年1月17日) | M7.3 | 6,437人 | 19,331円 | 19,241円(-0.5%) | 18,313円(-5.3%) | 16,268円(-15.8%) | 16,213円(-16.1%) |
北海道南西沖大地震(93年7月12日) | M7.8 | 230人 | 19,980円 | 20,180円(+1.0%) | 20,493円(+2.6%) | 20,500円(+2.6%) | 17,881円(-10.5%) |
日本海中部地震(83年5月26日) | M7.7 | 104人 | 8,626円 | 8,617円(-0.1%) | 8,711円(+1.0%) | 8,961円(+3.9%) | 9,318円(+8.0%) |
※ 震災当日が休日の場合、もしくは東証開始時間前の場合は前営業の株価
出所:気象庁、モーニングスター
ただ、その後の動きをみると、阪神大震災もマーケットに大きな影響を与えていることが分かります。当日こそ小幅安にとどまった日経平均ですが、約1カ月後の20営業日目では5.3%安、3カ月後の60営業日目では15.8%安と下げ幅を広げていきます。これは、被害の状況が明らかになるにつれて、市場心理が悪化していったためだと考えられます。
結局、発生から120営業日目の日経平均の下落率は、阪神大震災が16.1%で、東日本大震災の14.3%よりも大きくなりました。国土交通省の推計では、阪神大震災の被害総額は最終的に9.6兆円まで膨らみました。また、震度7を観測したのは国内ではこの時が初めてで、市場も経済的損失をすぐには測りかねる状態でした。徐々に株価の上値が重くなったのも、マーケットが後手に回ったことの表れでしょう。
東日本大震災の被害総額は16.9兆円と未曽有の規模になりました。しかし、仮に阪神大震災を経験していなければ、株価への悪影響はより大きなものとなっていたかもしれません。
新潟県中越沖地震の影響
そして、120営業日目の状況を比べた時に、この2つの大震災をも凌駕する下げを記録したのが07年7月に発生した新潟県中越沖地震で、下落率は実に22.6%に達しています。同地震のマグニチュードは6.8(東日本大震災は9.0、阪神大震災は7.3)で、被害の規模もずっと小さかったにも関わらず、なぜこうしたことが起きたのでしょうか。
米国発のサブプライムローン問題が表面化した時期と重なるため、もちろん一概に地震のせいとは言えません。ただ、同地震では自動車部品メーカーのリケンの柏崎工場が被災した影響で、自動車メーカーが軒並み生産停止に追い込まれるという事態が発生しました。在庫をできるだけ持たない、いわゆる「トヨタ方式」の生産概念で構築されたサプライチェーン(供給網)の欠点があらわになった例として知られています。これもある意味「ネガティブサプライズ」となって、相場の重荷の一因となったのかもしれません。
今回4月16日にマグニチュード7.3の「本震」が発生した熊本地震では、本稿執筆中の19日時点でも大きな余震が断続的に続く心配な状況です。工場も多く、経済的な影響は未知数と言えるでしょう。ただ、今後サプライチェーンへの影響が深刻化すれば、新潟県中越沖地震で生じた問題が再燃する可能性もあります。これからNISAで投資を始める人は、過去の地震と株価の関係も参考にしていただければと思います。