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年金の繰下げ受給の損得は手取り額で比較しないと意味がない(犬山忠宏)

2015-09-11

年金の繰下げ受給

 通常65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金は、66歳以降70歳までの間で申し出た時から受給を開始できる繰下げを選択することができます。繰下げの請求をした時点に応じて年金額が増額されます。その増額率は、

増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007

となっており、最大で70歳まで繰下げをした場合42.0%の増額となります。

 それでは65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合では何歳まで生きれば繰下げ受給が有利となるのでしょうか。これは65歳から70歳になるまでの5年間に先に受け取れる年金額を70歳からの増額分で何年で回収できるかを計算すれば求められます。65歳からの年金額を100とすると繰下げ受給した場合の70歳からの増額分は、100×42%=42 となります。

100×5年÷42=11.9年

ですから70歳から11.9年後の81歳11ヶ月の時点で受給累計額はほぼ等しくなります。これよりも長生きすれば70歳からの繰下げ受給をした方が有利となります。

 平成26年簡易生命表によると65歳の平均余命は男性で19.29年、女性で24.18年ですから65歳の方は平均で男性で84歳3ヶ月、女性で89歳2ヶ月まで生きると言えます。いずれも上記の81歳11ヶ月を超えていますので、平均的には繰下げ受給をした方が受給累計額は多くなる可能性が高いと言えます。

手取り額での比較

 年金の収入は雑所得に分類され年金額に応じた公的年金等控除額を差し引いた額が所得金額となります。この所得金額が基礎控除額などの所得控除額を上回る場合には所得税、住民税がかかってきます。また、所得に応じて国民健康保険料(75歳からは後期高齢者医療保険料)や介護保険料などの負担もあります。受給額の比較では上記1のとおり81歳11ヶ月の時点で65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合がほぼ等しくなります。しかし、現実的にはこれらの税金や社会保険料は必ず負担しなければなりませんので、これらを差し引いた手取り額で比較しなければ意味がありません。

 国民健康保険料、後期高齢者医療保険料や介護保険料は住んでいる都道府県、市町村によって異なってきますのでこれから示す検証結果は住んでいる地域によって異なってきます。また、年度ごとにその計算方法も変更されるため実際の額とは異なります。したがって、一つの参考としてみていただければと思います。

 社会保険料は筆者の住む横浜市の平成27年度の保険料の算出方法で計算しています。前提として単身世帯で年金以外の所得はないものとします。また、復興特別所得税は考慮していません。住民税の均等割における横浜みどり税と臨時特例法による上乗せは考慮していません。65歳から受給する場合その前年の所得はないものとしています。70歳から繰下げ受給する場合64歳から69歳までの間所得はないものとしています。所得がない期間について社会保険料の減免は受けていないものとします。基礎控除と社会保険料控除以外の所得控除はないものとします。

 検証は厚生労働省の「平成25年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」による厚生年金の男子受給額の平均月額166,418円にほぼ等しい(1)年額200万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合についてまずみてみます。さらに、所得税、住民税がかからない(2)年額150万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合についてもみてみます。

(1)年額200万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合の比較

図表1:年額200万円を65歳から受給した場合

図表2:年額284万円を70歳から繰下げ受給した場合

図表3:65歳から200万円受給した場合と70歳から284万円繰下げ受給した場合の手取り額の累計

(2)年額150万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合の比較

図表4:年額150万円を65歳から受給した場合

図表5:年額213万円を70歳から繰下げ受給した場合

図表6:65歳から150万円受給した場合と70歳から213万円繰下げ受給した場合の手取り額の累計

手取り額でみた繰下げ受給の損得

 年金の手取り額で繰下げ受給の損得を検証してみると、(1)年額200万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合では、手取り額の累計は84歳で繰下げ受給の方が65歳からの受給を上回ります。また、(2)年額150万円を65歳から受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合では、手取り額の累計は86歳で繰下げ受給の方が65歳からの受給を上回ります。いずれも受給額で繰下げ受給と65歳からの受給がほぼ等しくなる81歳11ヶ月より遅くなります。

 この理由として次の二つをあげることができます。一つは、所得が少ない場合または0の場合、社会保険料の軽減措置により相対的に社会保険料負担が小さくなることです。もう一つは、検証した範囲の年金収入に対する公的年金等控除額は120万円で一定であるため、年金が多くなるほどその所得金額が相対的に多くなり税負担や社会保険料負担が大きくなることです。

 65歳からの受給額が住民税がかからない範囲である場合には社会保険料の負担も小さくなり、受給額に対して手取り額はあまり減りません。しかし、繰下げ受給して住民税が発生する受給額になると所得税も発生し、社会保険料の負担も大きくなることから受給額に対する手取り額の割合が相対的に減ってきます。したがって、(2)のようなケースでは86歳にならないと手取り額では繰下げ受給が有利とはなりません

 上記の検証数値は住んでいる市町村、年金受給額、年金以外の所得、扶養親族(配偶者を含む)の有無、扶養親族(配偶者を含む)の所得、他の所得控除の額などによって変わってきます。年金の繰下げ受給を検討する際はご自身の手取り額を計算のうえ検討されることをお勧めします。

犬山 忠宏

【いぬやま ただひろ】

1959年生まれ。神奈川県藤沢市出身。犬山忠宏税理士事務所/FPオフィスp.1代表。機械メーカーを早期退職後税理士・FPとして独立。税務だけでなく企業の経理から個人の家計管理、資産運用まで幅広くトータルなアドバイスを行っている。

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